ORANGE ROD SPECIAL INTERVIEW

- 僕はデザイナー。裏方ですからゴーストです。影の様にその存在そのものを消していきたい -

ホットウィールの世界で ORANGE ROD 名を知らない人はいない。ホットウィールのカスタムコンテストで数多の賞を総なめにしながら実体の多くは全く明かされていない。ORANGE RODは一体何者なのだろうか?謎に包まれるその存在の発端を見てみよう…


【ORANGE RODプロフィール】
2000年頃から趣味のHot Wheels(以下HW)カスタムを開始。日本のファンサイトやアメリカのHotWheelsCollectors.comのBBSへカスタム作品を投稿し、日米HWコンベンションのカスタムコンテストで数々のアワードを獲得。2006年にはカスタム作品のグラフィックがマテル社のデザイナー陣の目に留まり製品化。それがきっかけとなり当時のHWグラフィックチームのマネージャーからの誘いを受け、2008年より外部デザイナーとしてHW製品のグラフィックデザインを請け負う事となる。現在年間300点以上の製品のグラフィックとカラーリングのデザインを手掛けている。



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Q.ホットウィールのグラフィックデザインに関わるまでの経緯を教えてください。

僕はアメリカの掲示板にもカスタムカーを上げていましたから、それをマテル社のデザイナーさんや社員さんが見てくれていた様です。2005年に日本で開催されたコレクタークラブ(HWML)の集まりにHWデザイナーのジュン・イマイさん(当時/現KAIDO HOUSE)が遊びに来てくれて交流が始まりました。

そこからお世話になっているHWショップの方達にアメリカのコンベンションに連れて行ってもらいまして、マテルのデザインセンターを訪問したりもしました。そこでマテル社のHWグラフィックチームのマネージャーから「グラフィックやらないか!?」と誘われました。

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Q.オレンジロッド、その名前の由来を教えてください。

ファンの掲示板にお邪魔してカスタムの写真をアップするにはハンドルネームがいるわけです。その時になんとなくつけたものです。僕が最初にホットウィールのカスタムをしたのが雑誌『model cars(モデル・カーズ)』のコンテストだったんですけど、その時に賞をもらった車がオレンジ色だったんです。メタリックオレンジは曲面を使ったショーロッドに映えますし、カスタムペイントならではの色という感じがして好きでした。好きなオレンジ色にホットロッドの「ロッド」をつけてオレンジロッド(笑)。それをそのまま今も使っています。

この車のルーフの模様は初めて描いたピンストライプです。カルチャーも何も知らない状態ですから、僕のイメージだけで勝手に作り上げたピンストです。まったく形にはなってないんですけど、誰も描けないピンストライプになっていると思います。その頃から、アメリカ車の専門誌も読み始めて得た知識をHWカスタムに反映させるのに夢中になっていきました。


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Q.デザインをはじめたきっかけは何だったのでしょうか?

今じゃ考えられないですけど僕が中高生くらいの頃までは町に一軒はおもちゃ屋さんがあるような状況で、僕も高校時代は地元の玩具模型店でバイトをしていました。

子供の頃から図画工作が好きだった流れでカーモデルやラジコンに興味を持ち始め、バイト代はほとんどおもちゃやプラモの現物支給に近い状態でした(笑)。はじめてのエアブラシもバイト代で買いました。そんなで中で漠然と将来はデザインの仕事がしたいくらいの気持ちで美大を目指し、◯浪してグラフィックデザイン科に入りました。そのうちにホビー関連のデザインに関わりたいと思うようになり学校では平面ではなくて模型や立体造形の作品ばかり作っていました。

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Q.ホットウィールとの出会いを教えてください。

僕は実車というよりもトイ(おもちゃ)から入ってます。コレクションを意識しはじめたのは小中学生の時のチョロQからで、やがてフィギュアブームの頃バットマンやスポーンなどのUSトイに興味を持ちました。

USトイを扱っているお店に行くと並行輸入のホットウィールも売っているわけです。フェラーリやポルシェとか実車のあるような車は千円くらいするわけですが、オリジナルデザインの変わった車はコレクターに人気がないのか安いんです。三百円くらいで買えちゃう。

おもちゃ好きとしてはオリジナルデザインのほうにこそ惹かれるわけでそこから面白い車をツマんでいくうちに、『model cars(モデル・カーズ)』を読んで新製品を追うようになり、カスタムコンテストの告知を見て作ってみようかとなりました。それがホットウィールとの出会いでした。


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Q.ご自身のスタイルはどのように形成されていったのでしょうか?

HWのカスタムは分解が基本です。車の裏にあるカシメをドリルで外して分解するんです。それを糸鋸でぶった斬って、それを組み合わせて繋いで接着して、色を塗っていきます。はじめは知識も技術も何もないですから、基本はすべて分解して知ることからスタートしています。

2000年代初頭の頃は、個人のホームページに掲示板があって、それぞれに同好の仲間が集まっていた感じです。掲示板はカスタム作品の発表だけでなくお互いの技術や情報を交換する場でもあり、僕自身も投稿する様になってから色々なことを教えていただきました。

カスタムの手法にも様々あってタイヤホイールの交換、ボディのリペイントからパテやプラ板、金属素材を使った成形、エンジンや内装など細部のディテールを細かく作り込むスタイルもあります。

僕はHWのパーツ同士を切り貼りしてあたかも元からそのキャストがあるかのような1台にまとめるのが好きです。ずっとHWデザイナーへの憧れがありますから、自分がデザイナーになったつもりで、デザイナーごっこのイメージです。あのキャストのこの部分が使えるかな?なんて事を常に考えています。実際に削って合わなかったりもするんですけど、そこを何回も繰り返して一体化させていきます。

プラモデルのパーツなどは使い過ぎると軽くなりますから、僕はやっぱりダイキャストの重みを出せればと思って金属パーツを中心に使いながらカスタムしています。完全に個人的な好みですが、軽くなり過ぎるとミニカーじゃなくなっちゃう気がするんです。

とにかくたくさんのキャストの事を知っていないと僕の思うようなカスタムやデザインはできないので、今でも新しいキャストは一通り買います。もうずーっと買っています。発売日の朝並ぶのが苦手で今やネット通販も早い者勝ちですので、どうしても欲しいモデルがあるときはアソート箱で買っちゃいます(笑)。

全部でどれくらいの個体があるんでしょうかね?本当にたくさんのキャストがあります。HW以外にもプラモデル、ラジコン…etc、カスタムできる物が好きで集めるのも大好きです。ですからコンテナを借りてですね…。


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Q.当時すでに高いレベルのウェザリング技術を持っていたと聞いています。

カスタムをアップしていく過程でのちに*ヘルズデプトを立ち上げられたCHOJIROさんと仲良くさせて頂きました。数名であれこれとネタを持ち寄って遊んでいた中で当時、実車の方でもRat Rodが注目されていたこともあり、とにかく車を錆びさせる*ウェザリングのテクニックを一時期競っていました(笑)。僕らの周りではエイジングがとてもホットでした。もともとプラモデルでやっていたウェザリングの技法をミニカーで試すのはとても楽しかったです。

*ヘズルズデプト HE”LLS DEPT King of Custom"
リンク:https://www.hellsdept.jp

*ウェザリング(英語: weathering)は、模型における塗装技法のひとつ。もともとのweatheringという語の意味は「風化」。

CHOJIRO、KEWO、リョウユウとORANGE RODの4人は2004年に開催された日本初公式HWコンベンション、Hot Wheels Custom Car Showにて行われた日米カスタマイザー対決の日本代表に選ばれ、四天王と呼ばれている。


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Q.どんなものからインスピレーションを受けているのでしょうか?

僕は自分の中に培ってきた記憶を、その時々の雰囲気でアウトプットしていきます。車の情報は常に見ていますけど、アニメ、マンガなどもインスピレーション元になっています。あとはやっぱり自分が見て触ってきたモノや昔のオモチャの記憶です。

例えばそれは七〇、八〇年代の色使いだったり、九〇年代がまとっていた雰囲気だったりとかです。「あーこういうドぎつい色の組み合わせあったなぁ~(笑)」とか、現代のトレンドも勉強しつつ、自分の記憶に残って覚えているものが意外なところで役に立ったりしています。

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Q.好きなデザインや得意なスタイルはありますか?

ジャンルを問わずレーシングカーのストライプやゼッケンが入ったデザインが好きです。

これは昔のバラクーダをモチーフにしたFast FishというHWオリジナルキャストをリペイントしたお気に入りのカスタムです。デカールを自作して当時、実際にあったレーシングカーDan GurneyのAARバラクーダのカラーリングにしてサイトに載せたのですが、そのずっと後になってマテル社のマネージャーさんが「あっ!そういえば昔オレンジ君がやってたあのバラクーダのカラーリングでやろうよ!」と。グラフィックはそのまま流用して、ナンバーとカラーは著作権の問題で変更してリリースされたのがこのキャストです。僕は、この時代のレースカーのカラーリングが大好きです。

*ダン・ガーニー Daniel "Dan" Sexton Gurney
アメリカ合衆国出身の元レーシングドライバー。レーシングコンストラクター「オール・アメリカン・レーサーズ」の創設者。1955年にカリフォルニア州南部でトライアンフ・TR2に乗りレースキャリアをスタートする。F1、インディカー・シリーズ、NASCAR、ル・マン24時間レース等フォーミュラ・ハコを問わず様々なレースで優勝を飾る、米国を代表する古豪レーサーの一人。

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Q.デザインにおいてどんなことに苦労されますか?

基本的に僕は絵は描かず主に図形や文字の組み合わせでグラフィックを作っていますが、要求されたテーマによっては一からイラストを描き起こして取り込むことも必要で、短時間でスタイルから勉強して形にする作業は楽しくもあり大変なこともありました。

とくに近年のArt Carsシリーズは一台ごとに異なる様々な表現を求められるので毎回チャレンジでした。あとはNew Year Carのように毎年同じテーマ、同じキャストで展開するシリーズは以前のものと被らないように変化をつけるのが大変です(笑)。

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Q.2025年のジャパンコンベンションカーであるGT-Rについて教えてください。

青いキャストに大きなホットウィールのロゴが脇に入っているレーシングカラーシリーズはホットウィールファンに大変人気があり、僕の大好きなテーマでもあります。またGT-Rはレッドラインクラブでも毎回ソールドになるくらい実車同様HWでもアイコン的な存在です。今回はその両者の組み合わせでというオーダーをまずいただきましたので気合を入れてデザインしました。


コンベンションロゴと同じ赤白黒のカラースキームを用い、上部をブラックアウトしてカスタム感を出しました。左右色違いのレーシングストライプと日本語と英語のHWロゴを左右それぞれに入れています。日本語ロゴ側ではゼッケンサークルが日の丸になる様にして…。日本らしさと合わせて例年のコンベンションカー同様、左右で違う表情を楽しめるようにしました。また白地に赤ロゴのドリフトマシンが実車にも存在しますが、同じテーマカラーを使いつつ差別化できるよう願いながら作っていきました。


イベントオーガナイザーのアイデアで往年のマテルのCMコピーやマッティー君のイラストも入り、HWファン、マテルファンの遊び心がこもった一台になったかと思います。ブリスターカードのデザインもアニメ、マンガのイメージを取り入れて日本らしくかつ白い車体が映えるようなデザインにしてあります。

普段主に手掛けているレギュラーモデルは、一個1ドルで売る前提でコスト計算されていますからグラフィックを入れられる範囲やタンポ印刷の色数、メッキの有無等、色々な制限があります。今回のGT-Rはもう全く制限がない(笑)。ホイールの中のブレーキパッドとか、ベルトの色もデザインできますから「この色にしたい!」と指定すればそのすべてが製品に反映されます。とても楽しいお仕事でした。

ジャパンコンベンションの節目の一台とのことで今回のGT-Rはいいとこばかり集めました。実際に手に取ってミニカーとしてのまとまり、質感を感じて欲しいと思っています。

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Q.お気に入りのキャストがあれば教えてください。

僕は*マーク・ジョーンズ先生の手掛けた曲線が美しく様子がオカしいオリジナルデザインのキャストが大好きで、中でもHyper Miteが一番のお気に入りです。これだけで数百匹ストックしています(笑)。

*マーク・ジョーンズ Mark Jones:
あらゆる自動車文化への深い造詣をもとに緻密な実車系モデルから奇想天外なオリジナルカーまで多くの傑作を生み出したHWデザイナー


仕事でハロウィンとイースターテーマのグラフィックデザインを手掛けることができたのは嬉しかったですね!リペイントしたりデカールを作ったりとカスタムもして楽しんでいます。最近の製品ではこのプロパガンダアートをテーマにしたC10も気に入っています。


このキャストも、元々は遊園地にある電動カートです。そこにボードゲームの駒の髑髏を使って、リアのポールも金属に置き換えて、エンジンを乗っけてですね…。この頃は一週間くらいで作ってましけど、最近は剥離剤やポリパテ等、有毒性の高い素材を扱うのが億劫になってしまってカスタムは控えてます。カスタムベースのストックは相変わらず増えてるんですけど(笑)。

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Q.ホットウィール、おもちゃの魅力?

やっぱり自由なところが好きです。マテル社から出てくるモノ自体が自由ですし、こっちの遊び方も自由です。古今東西のカルチャーを貪欲に取り入れていて意外なものにも元ネタがあったりして大人でも勉強になります。それらを子供向けのおもちゃに一回デザインし直して、安全基準を満たしてコストも追求していく、その姿がまた良いなーと思うんです。

同じ形のものを色違いで並べる楽しみとか、モノとしてのサイズ感、適度にチープな感じが逆に良いんですね。その隙間があることで、自分が想像できるんです。解像度を上げることもできるし、下げることもできます。

本当にそれぞれが、それぞれの楽しみ方で楽しんでいます。カスタムの人、車種別の人、ヴィンテージオンリーの人、レッドラインのレアなものだけの人、プロトタイプを集めちゃう人、ダウンヒルレースで速い車を追求する人…。それぞれの拘りが爆発しています。作り手もファンもホットウィールの周りに面白い人たちが見えてくる、そこが魅力です。

僕は精巧なスケールモデルよりむしろおもちゃとしてのミニカーの雰囲気とか質感が好きなんです。まずミニカーと出会ってから実車がどんなんだろう?という様に掘り下げていきます。個人的におもちゃを通して様々なカルチャーに触れることができ、世界が広がったなと感じています。僕が関わった製品に触れた誰かが同じような体験をするお手伝いができれば嬉しいです。(了)

 

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2025 CONVENTION CAR : NISSAN SKYLINE GT-R(BNR34)
Designer : Orange Rod

HOT WHEELS™ and associated trademarks and trade dress are owned by, and used under license from, Mattel. ©2025 Mattel.


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